コメルツバンク・アレーナというところに行ってきました。
今乾選手が所属しているフランクフルトのホームスタジアム、
それから2011年女子W杯でなでしこJAPANが優勝したスタジアム
でもあります。
スタジアム担当者に幅広い質問ができたものの、検証のための質問ができず、
情報の確度がスタッドフランスよりも低い可能性が否めません。
※一般ファン向けにスタジアム担当者が細かい点を省いて説明していた可能性あり。
不特定多数の方がお読みになるブログに掲載するのはどうか、
と思うところもあるのですが、みなさんにとって何かを考える
きっかけにしていただくべく、思い切って公開します。
あくまで参考程度にお読みいただき、
もし詳細を確認されたい場合は、サイト上記の私のアドレスにご連絡ください。
【マネジメントスタイル】
日本の指定管理者制度と一部類似。
所有権:フランクフルト市
運営権:Stadion Frankfurt Management
(SPORTFIVEと地元の施設管理会社が共同出資した会社)
※ただし、VIPルームにおかれていた配布用名刺はSPORTFIVEだったため、
主導権はSPORTFIVEが握っている可能性あり
ただし収益分配の構造が大きく異なる。
日本の場合、スタジアム内収入の多くが所有者たる自治体に入り、
自治体から運営者たる運営会社に対して運営補助金が配分される。
一方で、当スタジアムでは収入の大部分(9割)が運営会社に入り、
運営会社から自治体に賃料として一定金額を納める、というスタイル。
利用者たるクラブも同様、クラブがチケット収入
(売上の4割がクラブに入る?)などを元に、自治体に賃料を納めている。
【記者席の配置について】
3階席(スタジアムの最上階で最も観づらいところ)に配置している。
試合を実質的に無料で観られる記者よりも、
自腹で試合を観に来るファンにこそいい席を優先したい。
(※補足:一方で、仕事で関わる立場の側からすると、
視認性の低さによる失敗のリスクを軽減すべく、
少しでも観やすい位置で観たいという思いは強くあります。
例えば実況の人間は、背番号や顔が見づらいと選手名を間違えてしまう
リスクが高くなります)
【スタジアムの配色】(黄と紺)
黄色は地元の銀行、コメルツバンクのコーポレートカラー。
2005年のリニューアル以降、この色を使っている。
フランクフルトのクラブカラーである赤と黒とは異なる点について、
ファンからの反対意見が強く出たかのではないか、という点については
「フランクフルト市の政治的判断でこうなった」とのこと。
【その他裏話】
バイエルン・ミュンヘンは、国内リーグの試合ですら
専用キッチン(!)を持ち込んでくる。おかげで
スタジアムのバス用搬入通路の高さが足りない
(通路の高さは6m以上と充分な高さにも関わらず)。
だからバイエルン・ミュンヘンだけ搬入通路の入り口前でバスを止めて
中に入ってもらうようにしている。
ピッチ上の空中に全方位型オーロラビジョンを設置(NBAと同様のイメージ)。
リーグのブンデスリーガでは使用するが、代表戦では使用しない。
ファンの興奮度が代表戦の方が高く、ファウル判定における審判関連の問題など、
トラブル抑止が目的。
芝生は年1回、120,000ユーロ(約1500万円)をかけて全面入れ替え。
全面入れ替えには1週間かかる。
コンサートを行う時は、芝生にカバーをかけるので、観客が踏んだピッチそのものは
その後もケアなしで利用可。ただし、ステージ設置部分については完全に使用不可となる。最短2日で復元。
コンサートのゲストの控室は、選手の控室(ロッカールーム)を利用。
ロッカー等を端っこに寄せてカーペットを敷く。
ロックグループによってはビリヤード台(!)を持参するところもある。
ブカレスト(ルーマニア)に、全く同一デザインのスタジアムが建設されている
(ナショナル・スタジアムと思料
http://jp.uefa.com/uefaeuropaleague/season=2012/final/index.html)。
おそらくコスト削減とデザイン性確保の両立が主目的。
※このプロジェクトモデルは日本でも活用できるのでは、と思料
石の彫刻で作ったフランクフルト市の紋章ををBusiness Loungeエリアに設置。
【所感】
◆前提
現状日本においては
①所有権も運営権もクラブ側が保有しているパターンが理想
②妥協案として指定管理者制度(所有権は自治体、運営権は民間団体という
管理スタイル)が存在し、それが「現実路線」として(やむなく)一般化
という認識が先行している印象がある。
しかしながら、Jリーグに関する(自身の)調査結果によると、
①のパターンよりも、②のパターン(指定管理者制度導入先)
の方が顧客満足度は高い。
指定管理者制度については、
・早稲田にて間野義之教授による積極的な研究
・広瀬一郎氏等が著書による一般的な説明
がなされているが、それらが一般レベルまで認知されている状態ではない。
また、上記の2つでもカバーしきれていない分野は多いにあるという印象。
つまり、新スタジアム建設や既存スタジアム運用に関わる立場の、
自治体・クラブ関係者・市民等が議論をする上で
必要となる知識レベル向上のための環境が備わっているとはいいがたい。
スポーツビジネスに興味を持っている人同士の議論でも、
「いいスタジアムを作るならクラブ所有にすべきだけど、日本ではまず無理だよな」
という結論に落ち着き、発展的な意見が生まれにくい状況。
◆所感
所有権が自治体にあっても、
ハード面(クラブの歴史を紹介するミュージアム設置等)
やソフト面(コンサート実施などの運営)等において、民間団体の運営権が
きっちり確保されていれば、充分素晴らしいスタジアム運営ができると認識。
日本で継続して行われているオリンピック・W杯招致活動について、
常に議論の的となる(そして発展的な結論があまり出ない)
「イベント後のスタジアム運営をどうするのか」について、
欧州のスタジアム・マネジメントに関する調査をより深めることは、
極めて有効だと認識。特に、クラブや自治体ではなく、
運営権者(SPORTFIVE等)へのヒアリング実施は大いに参考になるはず。
<ヒアリング例>
・新スタジアム建設の場合、どのタイミングから運営に関わるのか
・マッチデー・インカム(試合関連収入)をどのように分配しているのか
・自治体からどのようにして運営権を確保するのか
・運営権を1社で持つ場合と複数社で持つ場合のメリットデメリット
◆その他
最寄駅からスタジアムまでのルートが非常に印象的。
両側が木で覆い尽くされている一本道を通り、
そこを抜けるとスタジアムを真正面にして、左右対称で両側に
クラブの練習用コートが設置されている。
スタジアムそのものだけではなく、観客の同線全体にデザインを施す
という意識は素晴らしいと感じた。
ちなみに、ビジネスラウンジや記者席などは、木目調が多用されていて、
デザインセンスの高さを強く実感した。
スタジアムの形状をモチーフにしたロゴが
いたるところで活用されていたのも印象的。
ウェンブリーでも同様のロゴが存在しており、
スタジアムそのものをファンの間でアイデンティティー化するという意味で、
極めて効果的だと感じた。
ドイツの場合、同じスタジアムを指すにしても
シュタディオン、アレーナ、パークといくつかの表現がある
(日本もそうですが)。それぞれどういうコンテクスト(背景)の元で
名称が定められているのかを今後知りたい。
一般客を相手にしたスタジアムツアーという状況下で質問をしても、
説明者が一般客にわかりやすい説明をするべく、実際とは少し異なる
説明の仕方をするケースが極めて多い。また、個人で参加しても、
説明の大部分が英語ではなく現地語(ドイツ語等)となる。
この先本格的な調査をするためには、正式な「視察」として、
または5人~10人程度のグループで案内依頼を出す必要あり。